逆流性食道炎について
胃の内容物が一時的に食道へ逆流することは、誰にでも起こりうる現象です。通常は、下部食道括約筋がしっかりと働き、逆流はすぐに治まります。
しかし、この筋肉の機能が低下していると、胃液や消化物が慢性的に食道へ逆流し続けるようになり、胃酸から粘膜を守る機能が備わっていない食道に炎症が生じてしまいます。
これが「逆流性食道炎」と呼ばれる病気です。症状を放置すると、炎症によって粘膜が変化したり、食道がんのリスクが高まったりする可能性もあるため、違和感を覚えた際は早めに消化器内科を受診されることをお勧めします。
逆流性食道炎を引き起こす原因
逆流性食道炎が発症する背景には、大きく3つの要因が関わっています。すなわち、①胃の入り口を締める力の低下、②腹圧の上昇、③胃酸の分泌過多です。
まず、胃と食道の境界部には「下部食道括約筋」という筋肉があり、これが通常は噴門部を閉じることで、胃の内容物が食道へ逆流しないように働いています。
しかし、加齢や高血圧のお薬などによる影響でこの筋力が弱まると、逆流が起こりやすくなります。さらに、横隔膜にある「食道裂孔」と呼ばれる開口部から胃の一部が胸の方へ押し出される「食道裂孔ヘルニア」が生じると、この括約筋の締まりが一層緩みやすくなり、逆流性食道炎の原因としてよく見られる状態となります。
次に、腹圧の上昇も大きな要因です。前かがみの姿勢を長時間とる仕事、重い物を持つ動作、便秘による強いいきみなどが習慣化していると、胃の入り口にかかる内圧が高まり、括約筋の力を上回って胃内容物が食道へ押し戻されてしまいます。肥満や過度な飲食も同様の影響を及ぼします。
また、胃酸の分泌が過剰になることも逆流を助長します。
脂っこい料理や甘い物、刺激物やアルコールの過剰摂取は胃酸の分泌を促進しやすく、逆流性食道炎の発症リスクを高めます。近年では、ピロリ菌除菌の普及により、除菌後に胃酸の分泌が一時的に活発化して逆流性食道炎を起こすケースや、そもそも胃にピロリ菌が存在しないことで胃の働きが活発になり、胃酸が多く分泌されやすい体質の人が増えており、逆流性食道炎の発症数は増加傾向にあります。
逆流性食道炎の主な症状
主な症状には、胸やけやみぞおちの痛み、酸っぱい液体がのど元まで上がってくる感覚(呑酸)、げっぷなどがあります。
病状が進行すると、のどの違和感やつかえ感、さらには風邪ではないのに咳が長引くといった、咽頭に関連した症状が現れることもあります。
逆流性食道炎の検査・診断方法
問診によって症状をお伺いすることで、ある程度は逆流性食道炎の可能性を見極めることができますが、実際には「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」や「バレット食道」、さらには「バレット食道がん」のような疾患が隠れていることもあります。
確定診断や炎症の程度を正確に把握するためには、胃カメラ検査が欠かせません。
逆流性食道炎の治療方法
治療においては、お薬による治療だけでなく、日常生活の見直しも極めて重要なポイントとなります。
生活習慣の見直し
腹部への圧力を適切に保ちつつ、胃酸の過剰な分泌を抑えるような生活習慣を心がけることで、症状の改善が期待できます。
例えば以下のような対策が有効です。
- 食事は脂肪分の多いものや過度な飲食を避け、栄養バランスを意識しながら適量を摂る。
- アルコールや唐辛子などの刺激物の摂取は控えめにする。
- 食後2〜3時間は胃に内容物が残っているため、すぐに横になるのは避ける。
また、猫背の改善や肥満・便秘の解消なども腹圧を軽減するのに役立ちます。
薬物療法
内服薬による治療では、胃酸の分泌を抑えるお薬が中心となります。
具体的には「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」や「ヒスタミンH2受容体拮抗薬」などを使用します。
さらに、患者様の症状や体質に応じて、胃の動きを助けるお薬や不安を和らげるお薬を併用することもあります。
逆流性食道炎に関するよくある質問
若い人でも逆流性食道炎になるのでしょうか?
かつては高齢者に多い病気とされていましたが、近年では食生活の欧米化により、脂肪分の多い食事を摂る機会が増えたことで、若年層でも逆流性食道炎を発症するケースが目立つようになってきました。
逆流性食道炎と診断されました。日常生活で気をつけることはありますか?
この疾患は日々の生活習慣、特に食事内容や食べ方が深く関わっています。脂っこい料理や辛味の強い香辛料、アルコールなどの摂り過ぎは避けましょう。また、早食いを控え、食事はよく噛んでゆっくりと摂ることが大切です。さらに、食後すぐに横になるのは胃の内容物が逆流しやすくなるため、食後2時間以上は体を起こして過ごすことをお勧めします。
逆流性食道炎は自然に治ることもあるのでしょうか?
症状が軽度であれば、生活習慣を見直すだけでも改善が見られる場合があります。

