機能性ディスペプシアについて
胃の調子が優れず、みぞおちの痛み（心窩部痛）や胃もたれ、少量の食事でもすぐ満腹になってしまう早期膨満感などの不快な症状が続いているにもかかわらず、胃カメラなどの検査で異常が見つからない場合、「機能性ディスペプシア」が疑われます。
かつては「神経性胃炎」といった診断名で呼ばれることもありましたが、2013年より正式な疾患名として「機能性ディスペプシア」が採用されました。
なお、「ディスペプシア」とは英語で「消化不良」や「胃の不快感」を意味し、正式名称の“Functional Dyspepsia”を略して「FD」と呼ばれることもあります。
この病気は命に関わるものではありませんが、症状が長く続くことで日常生活に支障をきたし、生活の質が低下したり、精神的な不調に繋がったりすることがあります。
慢性的な胃の不快感や胃痛にお悩みの方は、消化器内科などの専門医にご相談ください。
機能性ディスペプシアの主な症状
機能性ディスペプシアの定義（2021年版ガイドラインより）
日本では2013年に「機能性ディスペプシア」という病名が正式に採用され、2014年には日本消化器病学会による「機能性消化管疾患診療ガイドライン」が発行されました。さらに2021年の改訂第2版において、機能性ディスペプシアは次のように定義されています。
「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」
（『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021 機能性ディスペプシア（FD）改訂第2版：日本消化器病学会編集』より）
機能性ディスペプシアを引き起こす原因
機能性ディスペプシアの発症には、様々な要因が複雑に関与していると考えられています。代表的な原因は以下の通りですが、これらが単独で作用するのではなく、複数の要因が重なって症状を引き起こすケースもあります。
胃の運動機能の乱れ
胃は食べ物を受け取った後、上部を緩めて一時的に内容物を溜め、その間に胃液によって食物を液状化し、十分に消化された段階で下部の筋肉を収縮させて十二指腸へと送り出します。この一連の動きが正常に行われることで、スムーズな消化が保たれています。
しかし、この過程のいずれかに障害が生じると、胃もたれや早期飽満感、食欲の低下などが引き起こされることがあります。
この他、次のような複数の要因が重なって症状を引き起こすことが明らかになっています。
生活習慣の乱れ（喫煙・飲酒・睡眠不足・慢性疲労）
喫煙や過度の飲酒、慢性的な睡眠不足、疲労の蓄積など、不規則な生活習慣も機能性ディスペプシアの発症に関係していると考えられています。
食生活の偏り（高脂肪食・香辛料の過剰摂取・早食い）
脂っこい料理の継続的な摂取や、刺激の強い香辛料の過剰摂取は、胃に大きな負担をかけ、吐き気や胃痛などを引き起こしやすくなります。また、早食いや食事の時間が不規則であることも、胃の機能を乱す要因となります。
胃の形態異常（瀑状胃など）
胃の構造そのものが症状に影響する場合もあります。例えば「瀑状胃（ばくじょうい）」では、胃の上部が膨張し、胃全体がくの字に曲がるような形になります。
その結果、食べ物がスムーズに流れにくくなり、上部に滞留しやすくなります。この状態では胃酸の分泌も過剰になりがちで、様々な不快症状の原因となります。
細菌感染（感染性胃腸炎）
サルモネラ菌などの細菌による急性胃腸炎を契機として、機能性ディスペプシアを発症することがあります。
遺伝的要因
体質的に機能性ディスペプシアを発症しやすい遺伝的傾向があることも報告されています。
機能性ディスペプシアの検査・診断方法
機能性ディスペプシアの診断は、「明らかな器質的疾患や全身性・代謝性の病気が存在しないにもかかわらず、胃の不快な症状が慢性的に続いている」ことが前提となります。
そのため、まずは他の疾患が隠れていないかを調べる「除外診断」が必要です。その際に重要となるのが、胃カメラ検査です。
胃カメラ検査
口から細いスコープを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜の状態を直接観察します。
炎症、潰瘍、腫瘍などの器質的疾患が存在しないことを確認するのが目的です。
また、検査中に気になる部位があれば、粘膜の一部を採取して病理検査を行うこともあります。加えて、ピロリ菌への感染が疑われる場合には、その場で検査を行うことも可能です。
「つらい検査」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、当院では内視鏡検査の専門医・指導医の資格を有する医師が担当し、最新の高性能内視鏡システムを用いて、患者様の負担を最小限に抑えた検査を提供しています。安心してご相談ください。