アニサキス症について
アニサキス症は、生魚などを介して人に感染する寄生虫による食中毒の一種です。アニサキスは、主に魚介類を宿主とする寄生虫で、人が刺身や加熱不十分な魚介類を食べることで体内に侵入します。
人の体内ではアニサキスは生き続けることができず、数日以内に自然死滅しますが、それまでの間に強い胃痛や吐き気などの急性症状を引き起こすことがあります。稀に、胃や腸の壁を突き抜けて腹腔内に侵入するなど、重症化するケースも報告されており、注意が必要です。
アニサキス症の主な症状と発症メカニズム
アニサキス症は、生の魚や加熱が不十分な魚介類を食べた数時間後に発症することが多く、以下のような症状がみられます。
主な症状
- みぞおち(心窩部)に刺すような激しい痛み
- 激しい腹痛
- 吐き気や嘔吐
- 腹部の膨満感(張り)
- 便やガス(おなら)が出にくくなる
- 蕁麻疹などのアレルギー反応
- アナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー症状
これらの症状に心当たりがあり、特に直前に魚介類を生で食べていた場合には、できるだけ早めに消化器内科などの医療機関を受診することが大切です。
発症メカニズム
アニサキスは、体内に入ると胃や腸の壁に潜り込もうとする習性があります。このとき、虫体が胃壁や腸壁に接触・侵入する部位でアレルギー反応が起こり、局所的な炎症と強い痛みを引き起こします。
また、ごく稀ではありますが、アニサキスが胃や小腸の壁を貫通して消化管の外側に移動することもあり、その場合は腹膜炎のような重症状態に進行する恐れがあります。
アニサキスが原因で発症する疾患
胃アニサキス症
アニサキス症の中で最も発症頻度が高いのが「胃アニサキス症」です。生の魚介類を食べた後、およそ3〜4時間以内に、みぞおち付近に強い痛みや吐き気、嘔吐などの症状が現れます。
これは、アニサキスが胃壁に潜ろうとする際にアレルギー反応が起きるためです。
お薬による治療では根本的な改善が難しいため、胃カメラを用いて虫体を直接摘除する必要があります。摘除後は症状が急速に軽快するのが一般的です。
小腸アニサキス症
アニサキスが胃を通過して小腸まで到達し、腸壁に侵入しようとすることで発症するタイプです。感染から十数時間~数日後に、強い下腹部の痛み、吐き気、嘔吐、発熱などの症状が見られます。
ごく稀に、腸閉塞や腸穿孔などの重篤な合併症を引き起こす場合もあり、注意が必要です。
消化管外アニサキス症
非常に稀なケースですが、アニサキスが胃や腸の壁を突き破って消化管の外に出てしまうこともあります。発症部位によって症状や治療法が異なるため、より専門的な対応が求められます。
アニサキス症の検査・診断方法
まずは、発症時期や症状の詳細を問診でお伺いし、胃アニサキス症の可能性が高いと判断された場合には、胃カメラ検査を実施します。
必要に応じて、超音波検査・レントゲン検査・血液検査などを組み合わせて診断を行います。
アニサキス症の治療方法
胃アニサキスの治療方法
胃カメラ検査によってアニサキスを確認できた場合は、スコープ先端の鉗子を使って虫体を摘除します。これにより、多くのケースで症状は速やかに改善します。
当院では、内視鏡検査の専門医・指導医による検査を、最新の高性能内視鏡システムで行っており、患者様の負担を最小限に抑えるよう努めています。
胃カメラに抵抗のある方には、鎮静剤を用いた無痛内視鏡検査もご案内可能ですので、安心してご相談ください。
小腸アニサキスの治療方法
小腸での感染が疑われる場合には、連携する専門医療機関に速やかにご紹介し、必要に応じてCT検査を行います。小腸は胃に比べて壁が薄いため、穿孔のリスクもあり、入院のうえで経過観察が必要となる場合もあります。
アニサキス症の予防方法
アニサキスは、魚介類が生きている間は内臓に寄生していますが、死亡後は筋肉部分へと移動します。そのため、魚の内臓を生で食べるのは非常に危険です。
アニサキスを死滅させるには、以下のような加熱・冷凍処理が有効です。
- 70℃以上で加熱する(または60℃以上で1分以上)
- -20℃以下で24時間以上冷凍する
また、アニサキスは1.5cm前後の大きさがあるため、目視で確認できる場合もあります。魚の身にアニサキスを見つけた場合は、確実に取り除くようにしてください。
ただし、身が厚い場合などは目視での確認が難しいこともあるため、十分に注意が必要です。
よく「酢でしめた」「塩もみした」から大丈夫と思われがちですが、酢や塩ではアニサキスは死滅しません。
特に釣り上げたばかりの魚を生で食べる際には、内臓をできるだけ早く取り除き、身をしっかり確認することが予防のポイントです。

